直方体

コンパクトドレーンユニット

だいたいだよ。
この直方体に僕の身は委ねられているのだよ。
 
この直方体の充電が切れれば、
この直方体も息絶えるし、僕もまた然りなのだ。
いたってシンプルだろう?
 

指先につけたパルスオキシメータを見ながら、酸素吸引機を鼻につけ、スーハーと喘ぐように呼吸をする(パルスオキシメータが80/100を切ると幾ら呼吸をしても水の中に溺れているようなんだ)。肺にたまった水が口から黄色い液体となって噴出する(咳なんてしたら息がもったいないじゃないか)。左腕に装着されたチューブから、僕は点滴や様々な薬物をぽたりぽたりと注入する(この雫が僕を強化するのだ)。
 
それでも、この直方体のドレーンユニット(持運式低圧持続吸引器)を
引きずり、今日も僕は地下のレントゲン撮影室へ向かうのだ。
 
このドレーンの先は、僕の胸膜を突き破り肺の奥まで到達する(左腕を上げると背中が引き裂かれるような痛みが走る)。そして、僕の身体の中の空気、そして水を吸引する(肺にたまった水だけでなく、チューブには赤くべったりとしたものがこびりつく)。僕の肺に穴があいていると、こいつが、ボコボコと言うんだ(姿勢をかえる度、咳が出るとき、深く息をしてしまったとき)。
 
「お前には穴があいているんだ」「いや、まだだね」「そんな息を押し殺した所で無駄さ」「ほうらそれ見たことか」「お前は俺なしじゃやってけないのさ」そんなことを言う時、こいつは「過陰圧」や「エアリーク」のランプをも点滅させる。
 
だが、こいつが示す陰圧により僕は支えられ、息と共に圧力の変化を示すこのランプが僕が生きていることの証明だ。
 
大原巌は「負けたくない、負けたくない」そう呟きながら、
自分の持つ狡猾な魔法を駆使し、指し続ける。
 
今日、渡辺竜王が勝ち、2勝目(7戦)となった。
戦っている人の気持ちに少し近づけた気がした。
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  • 補足

そう、ただ、怖いだけなのだよ。
もし、明日、また、穴が空いていることがわかったりしたら...