池の狸と強がり狸

ねづぼん

昔馴染みの狸が、不忍池の畔に引っ越してきました。
池の狸「とうとう、こっちへ来ることになりました。
 でも、ここはどうもこうも落ち着かないね。
 池の周りには変な人が多いし、澱んでいるし」
強がり狸「ん〜アメ横の辺りなんていんじゃない?」
池の狸「あぁ〜ええよな。あそこら辺はいい。活気があって。何だか馴染む」
強がり狸「多慶屋って行ってみたことある?」
池の狸「そうそう、多慶屋はいいね。うんうん。あの、何と言うか〜」
強がり狸「雑然とした中に見える調和」
池の狸「そうそう、あのビニール袋とか」
強がり狸「やばいよね。ディスカウントショップの老舗と言えるだけあるね」
〜〜
池の狸「この前夜歩いた根津神社に行ってみたけど、なかなかいいね」
強がり狸「でしょ」
池の狸「覆われているような感じのとこ全面つつじなん。来年は...」
 
 
強がり狸は思いました。『やっぱ、やなとこもあるけど、そんなことばかり言っても始まらないんじゃないのかな。今日着る服でも、今晩のご飯でも』
『さて、どんな気持ちで袖を通して、今日を過ごそう』
強がり狸はちょっと強がってみています。
 
 

  • 16日あたりでも、晩飯でも食べに行かない?

強がり狸「この前、行かなかった中華とか、どう?」
池の狸「おぉ〜いいねぇ」
強がり狸「根津神社の前辺りで集合で良い?」
池の狸「いいよ〜」
〜〜
強がり狸「その日さ、根津神社で盆踊りがあるらしいんだけどさ、
 ちょっと寄ってみない?」
池の狸「おぉ、なんだかえぇなぁ」
 
 
強がり狸は、ワクワクしながら浴衣に袖を通し、ドキドキしながら鳥居の前へと向かいます(あ”、屋台とかも出ないんだ)。
池の狸「おぉ〜久しぶり〜。浴衣?」
強がり狸「まぁね。折角だし。あれ?そう言ってなかったっけ」
〜〜
強がり狸「ちょっと入ってみちゃったり?」
池の狸「いやいやいや」
強がり狸「まぁ、ゆっくり、見てみやうよ」
〜〜
「前にいるおばちゃんを真似してだね」などと雑談をしているうちに輪の中へ
〜〜
強がり狸「繰り返されると何だか覚えてくるよね」
池の狸「昼に泳いでたんだけど、それとは違う動きで、何だかいいね」
〜〜
強がり狸「習得しちゃった?」
池の狸「こうで、こうやろ」
(動きがちょうどよく嵌ってくると何だか嬉しくなるのだ)
池の狸「あれ、今日は、舞台上がんなくていいの」
強がり狸「いやぁ、若い者に譲らないと。おっと始まった」
 
 
程よい汗を拭いつつ「海上海」へ
池の狸「前の浴衣を着てたおねいちゃん綺麗やったな」
強がり狸「いいよね〜思わず見とれちゃったよね」
池の狸「浴衣から手先にかけて」
強がり狸「白い手先。動いてて、すっと手が止まる瞬間」
 
 
強がり狸は思いました『すっと翳した手が止まる瞬間、手は止まっているのだけど、そこから、何かが暗闇の空へ流れて行き、半月の中へと吸い込まれて行っている』
どうも、そこでは、何かの通信が行われているようで、ふと、祖母の顔を思い出し、『あぁ、お盆なんだよなぁ』と強がり狸は思いました。