くらやみ坂3/5

レンゲツツジ

神社の裏を抜け、くらやみ坂を下り、茶屋の小径へ。あそこで引き返していればと思う。
 
最近また、あの夢をみるんだ。起きるとほぼ覚えていないのだが、夢の中では、「あぁ、またここだ」と思う。3階建ての家に僕は住んでいる。とても古い家だ。右側と左側に階段がある。階段はアールヌーヴォーであるのだが、僕が居る部屋は畳である。部屋から階段は見えないようになっているが扉がある訳ではない。ちょうど見えないように仕切りがあるのだ。多分、僕は2階に居るのだろう。古くさくなった畳の匂いがする。住んでいるはずなのだが、上の階に何があるかはよくわかっていない。下の階から何かがしゃがしゃと音がする。「誰か来たのかな」と僕は思う。左の階段の側に出る。籐椅子の向こうに窓が見える。夜だ。この階段があるところはシェードに裸電球が1つついているだけだ。いつものように、とっとっとっと下に降りる。階段は螺旋状で、しっかりとした木製。玄関は、古びた緑色の金属の扉で、蛍光灯がついている。誰も居ない。「あれ?また何かかな」(「何か」というのを僕は知っているようなのだが、今の僕は知らない)「それなら」と思い、1階の右の端の扉を開く。「あれ。これってどこだっけ?」と頭を巡らすのだがよくわからない。前に住んでた人が「....」とか言っていたな。扉を開くとそこは真っ暗である。目を凝らしているところまでは覚えているのだが、今回はそこで終わっていたような気がする。
 
金沢の駅を降りた時に思ったのだ。何だかここはうるさい。静かなところに居たせいだろうか。町が傲慢な感じがする(ただ、美術館に行きたかったいだけだよ)。何だか嫌な感じだ。郭の中には入らず、仏事の店の多い商店街を抜ける。東の方へ。あめ屋さんがあり、甘いものを口に含む。少し落ち着く。「聖」という名の喫茶店だ。カウンターに座り、おばちゃんの話を聞く。そう、こっちの人がそうなのか?無分別に人の心に割り込もうとする。僕は上の空で答えながら、「あぁ、この『が』が馴染めないんだ(「それ、いいね」などと言ってもらえればいいのだが「これ、いいが」などと言われると何だかひっかかるのだ)」と思っている。だが、僕が話したい訳ではないのを気づき、すっと話を引き、柏餅を出してくれ、少しずつ町の説明をしてくれる。(こっちの道を選んで良かった)。
その後、ふらふらと町を歩き、郭の中に向かう。そして、神社の裏を抜け、くらやみ坂を下り、茶屋の小径へ抜ける。そこから、いまいち何だか覚えていないのだ。
 
夢の中だけではない。頭の中でイメージされたものが広がり過ぎるのが怖いんだ。頭の中で微かに煌めく断片。その煌めく雫の儚さは瞬時に心を捉え、そこに捕われると、気づかないうちに次々と花が咲いていく。そこに埋れていれば、心地よい。そして、煌めきを越える美しいものなど存在しないのだ。(当たり前だ。固より現実なぞ茶褐色に煤けたものだし、この頭の中の快楽に抗う術などないのだ)
 
橋を渡り、茶屋を抜け、人を避け、さらに細い道へと想いから逃れるように只管歩く。レンゲツツジが咲いている。いや?さっき通ったはずだ。花だけ開き、葉が1つもない。そう、花だけなのだ。いや。何かの間違いだろう。さらに歩く。蓮晶寺の階段を上る。金沢の町並みを眺める。薄曇りの中、靄に覆われたような町並み。結局何?(少し落ち着きを取り戻す)ここは町の北東だ。方違えをした方が良いかもしれない。
川縁で一休みして本を読もう(この本のせいか?)。町に向かおう。華やかなところを通ろう。
近江町(築地の場外のような町)を抜ける(何も嬉しくない)。人込みを避け、ダイワ(老舗のデパート)に向かう(ときめかない。粗雑な感じがする。何だろう)。片町商店街を抜ける。匂いがする方へ。堅町商店街(少し落ち着く、竹下通りに似ているせいだろうか。背伸びをしすぎてアンバランスな服装)。スピーカーが路上のポールの下にある。(今まで音も聞こえなかったのか?)喫茶店に小倉コーヒーとある(あんことコーヒーは相性がいい。おいしい)。新堅町に抜ける。シンプルな雑貨屋(茶器だが杯にしたくなるような器)。桜橋を越える。何なのだ?南西の寺は何だか落ち着かない。道路、車のスピードが早すぎる通り、4車線以上の通りは嫌いだ(ふらふらと道に出ないように)。公園がある。竹藪のの向こうに犀川を眺められる(何だっていいんだよ。だってさ、別にどうだっていんだよ。崖の近くは危ない気がする)。西茶屋へ(これじゃぁ中途半端な観光地じゃない)。本を読みながら只管歩く。帰り道に城を通った気がするが、よく覚えていない(僕は、甘えさせてもらえればいいだけなんだよ。誰でもどうでもいいんだろう。もし、茶屋の角から椿か杜若蓮か華躑躅の何か。心を揺さぶる何か。僕を騙してくれる何か)。