春の嵐

湯島の梅

延陽伯の一節に次のような台詞がある。

「どふぅはげしゅーしてしょーしゃがんにゅーす」
中略
返事をせんことには先さんへ対して失礼(ひつれぇ)な、わしも咄嗟のことに「それはそれは、すたん、ぶびょーでございますなぁ」と、こぉ言ぅといた。

先週、春の風が吹いた時、僕は目尻を抑えながらそう呟いた。
 
そして、あぁそうか。と思った。
小さい砂からすると、風に吹き飛ばされ、塩水の中にぼちゃんと浸かり、ぐりぐりとやられて端に追いやられ、指先か何かで塩水とともに押し出される。そして、布に包まれ、真っ暗な袂の中へ。別にそうであってもなくても「小砂眼入す」なのである。
 
そして「笥箪、風屏でもいいんだ」と思った。そう思った時「僕はずっと春の嵐の中にずっと居たんだ」と気づいた。それに気づいた時、春の風がまた吹いた。その風は僕を空高くどこか知らない所へ運んでくれるような気がした。
 
人を好きになるってのは難しいことなんだな。